15分で身体が柔らかくなる!?ストレッチの効果と課題
目次
たった15分で身体が柔らかくなる?
写真の人は自他共に認める身体が固い人です。前屈はどんなに頑張っても床に手が届くことはありませんでした。しかし、あることをすれば、15分程度で床に手が届くようになってしまいます!
さて、どの様な原理(方法)で身体が短時間で柔らかく?なったのでしょうか?
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身体が固い=筋肉が原因?
健康な人で「身体が固い」ということを理解する為には、まず筋肉の働きについて知る必要があります。
多くの筋肉では、伸びている状態(弛緩)と縮んでいる状態(収縮)を繰り返しています。そうすることで、必要な場面で力を出したり、抜いたりすることが出来ているのです。
しかし、筋肉に必要以上の力(伸ばされ過ぎる)が加わってしまうと、筋肉が損傷(断裂)を起こしてしまうことがあります。いわゆる「肉離れ」は筋肉の部分断裂を指します。
筋肉を守るセンサー「筋紡錘(きんぼうすい)」
しかし!筋肉も自分を守る為に、筋肉の長さをチェックするセンサーを自身の中に取り入れています。そのセンサーの名前は「筋紡錘(きんぼうすい)」と呼ばれています。
筋紡錘とは全体の長さが6~8mmの細長いラグビーボールを伸ばしたような(紡錘)形をしています。通常は一つの運動単位(一つの神経線維に支配される筋)に一つの筋紡錘があると言われています。
脚気(かっけ)と膝蓋腱反射と伸張反射
筋紡錘の働きを身近に感じることが出来る現象として、脚気(かっけ)の検査があります。そうです、子供の頃によくやったあれです。膝小僧のすぐ下の凹んだ部分を固い物で叩くと、ピョン!と膝が無意識に伸びる遊びをしたことがありませんか?
これは膝蓋腱反射と呼ばれるものです。膝蓋腱とは大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)に繋がっている腱です。ハンマーなどで膝蓋腱を叩くと大腿四頭筋が急に伸ばされる為、伸び過ぎによる筋肉の損傷を防ぐ為にに、筋肉が収縮(縮む)する運動が膝蓋腱反射となります。
本来、筋肉の動きは脳(意志)による支配を受けています。しかし、身体的危機から自身を守る為には、より早い反応が求められることがあります。その為、伸張反射などは脳(意志)を介さずに脊髄レベルにてコントロールされています。「反射」と名が付くものは同様に考えても良いかもしれませんね。
身体の固さの原因は伸張反射?
本来、伸張反射とは筋肉を守る為に存在しています。ただ、伸張反射の程度に個人差がある可能性も考えられます。必要以上に早く伸張反射が起きてしまう(難しくいうと筋紡錘の閾値が低下)ことで、「筋肉が伸ばせない⇒身体が固い」状況になっている人もいるかもしれません。
身体は柔らかくなれる?
さて、ここで冒頭に述べた「短時間で身体が柔らかくなる方法」について説明します。これまでに述べたように、筋紡錘の閾値の低下(反応の速さ)が身体の固さの原因と分かりました(全てではありません)。つまり、筋紡錘の閾値を上げる(反応を遅くする)ことが身体を柔らかくする為には必要となるのです。
床に手が付くようになる方法
~1人で行うのは難しいので、2人で行うようにしましょう~
~患者さん役をAさん、治療者役をBさんとします~
① Aさんは、自身で手が伸ばせる位置まで伸ばします。
② Bさんは、Aさんの指先を軽く持ってから、少しだけ下(床の方向)に伸ばします。このときに重要なのは「痛みを出さない」こと(痛みが出たとしても僅かな範囲で収める)!
③ 10秒程②の姿勢を続けます。その後、元の姿勢(直立で立つ)で30秒程休憩をとります。
④ 徐々に伸ばせる位置が下の方に伸びて来る為、同様な方法にて15分程繰り返します。
「これぐらいなら大丈夫だよ♪」と身体に少しづつ教える(体験を通して)ことで、筋紡錘の閾値が上がる結果、身体が柔らかくなるのです。
注意点(禁忌)
- 関節そのものに疾病がある場合(関節リウマチなど)
- 骨そのもに疾病がある場合(骨折の直後など)
- 筋肉や腱そのもにに疾病がある場合(筋・腱断裂など)
- 自身で安定して立位を保つことが難しい場合
- 腰痛など慢性的な疼痛がある場合
- その他、医師から運動を制限するように指示を受けている場合
以上の方は、上記動作を行うことは避けて下さい。
運動後の注意点
運動後に何もしないと筋肉や腱が炎症反応(いわゆる筋肉痛)が起こしてしまいます。運動後はアイシングや軽めのマッサージを行うようにして下さい。
「15分で身体が柔らかくなる」はまやかし?
実は、遅くても翌日には身体は元に戻ってしまいます。1回の施術で「全てが解決」になるほど身体は甘くはないのです。
よく、テレビなんかで白衣を着た人が芸能人に施術を行う場面がありますよね。それこそ15分程度の施術で「こんなに変わりました!」とビフォーアフターが出てきます。
「ワァー!」と観客の声が響いてきます。でも、本当にその効果は明日以降も続くのでしょうか?もし、その場限りの効果であるのならば「テレビ用の効果」と言われても仕方がないと思いませんか?
療法士はその先にある問題の「本質」をみる
即時的な効果を否定している訳ではありません。むしろ重要な要素であると考えています。問題なのは、見栄えの良い即時的な効果のみを強調した施術(治療)であると思っています。
私達療法士は、その先にある問題の「本質」に辿り着く為の「手段」として即時的な効果を利用します。
例えば、肩の動きが悪くなり(関節可動域の低下)着替えが難しい患者さんがいたとします。ここで、いきなり着替えの練習を始めてしまうと、肩の痛みを誘発することがあります。結果、患者さんは痛みを恐れて更に肩の動きを自ら制限してしまいます。
そこで、事前に肩の動きが良くなる施術を行います。患者さんに「これぐらい動かしても大丈夫なんだ」と体感してもらったうえで、着替えの練習を始めるのです。
この患者さんにとって大切なことは「肩が動くこと」ではなく、「服を自分で着ること」であるはずです。殊更に、一時的に「肩が動くこと」だけを強調することの問題に気付いていただいたでしょうか?
また、肩の動きを悪くする原因を探ることも重要です。五十肩などの疾患が原因の場合もあります。肩を酷使する仕事など、生活環境が原因の場合もあります。
ただ、肩の動きを良くするだけでは対処療法になってしまいます。原因を解決しない限り問題を繰り返してしまうでしょう。疾患が原因であるならば、医師と情報交換を行ったり診察を勧めたりするでしょう。生活環境が原因であるならば、環境改善のアドバイスを行うでしょう。
まとめ
- 身体の固さは改善できる可能性がある
- 身体の固さは筋紡錘の閾値の低さが原因の場合もある
- 身体は一時的には柔らかくなるが長続きはしない
- 問題の本質を改善することが最も重要
- 即時的な効果ばかりを強調する施術(治療)は疑ってかかる