排尿障害とリハビリテーション「認知機能編」
目次
排尿を行うために必要なこと
- 生理的機能⇒身体が本来持っている排尿機能(蓄尿・排出)
- 運動機能⇒トイレまでの移動、便器への立ち座り動作、ズボンや下着の着脱など
- 認知機能⇒尿意を正しく感じる、トイレまで行こうとする意志、トイレの場所を認識、トイレまでの移動、ズボンや下着の正確な着脱、排尿後の正確な後始末、清潔維持の観念など
- ソフト環境⇒自宅なのか施設なのか(介助者が誰なのか)、介助者がいるのか、公的な保険(介護保険など)はどの程度使用できるのかなど
- ハード環境⇒家屋状況(木造、プレハブ、コンクリート等)、トイレの種類(和式、洋式、ポータブル等)、トイレの場所(1階、2階、離れ等)手摺りの設置状況など
今回は「認知機能」についてご説明します。
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認知機能障害の具体例と対策
尿意を正しく感じる
認知機能障害によって生じる症
- 尿が出ることを訴えない
- 何度も繰り返し訴える
- 正確に訴えることができない
具体的な問題
- 下着やオムツに出ていても訴えない
- トイレから戻って来ても直ぐにトイレに行きたいと訴える
- 訴えに応じて、トイレに行っても出ない
対応策
- 時間誘導⇒決められた時間にトイレに誘導する
- パターン誘導⇒例えば、排尿の前にはソワソワした仕草を見せるなど、排尿前のパターン(習慣)に合わせて誘導する。「排尿日誌」などで記録をしておくと良い
- 排尿習慣の再教育⇒排尿が成功すれば「褒める」など成功体験を積み重ねることで、本人が前向きに取り組める環境をつくる
トイレまで行こうとする意志
認知機能障害によって生じる症状
- トイレまで行こうとしない
- トイレでの排尿にこだわらない
具体的な問題
- 尿意の訴えがあってもトイレに行こうとしない
- トイレに行く運動能力があるにもかかわらず、オムツ内や尿器などに排尿する
対応策
- 排尿習慣の再教育⇒排尿が成功することは気持ちが良い(失敗は気持ちが悪い)など、成功体験を積み重ねる
- 自尊心を守る⇒無理強いはせずに、本人のペースに合わせて誘導する
- トイレにこだわらない⇒ポータブルトイレの利用など、トイレ以外でも可能な環境も検討する
トイレの場所を認識
認知機能障害によって生じる
- トイレの場所が分からなくなる
- トイレ以外の場所で排尿する
具体的な問題
- トイレの場所が分からずにウロウロする
- 床の上やゴミ箱の中に排尿する
対応策
- トイレまでのルートを明確にする⇒ルート上の目につく場所に、トイレのマークなどを設置して目印にする
- トイレまでのルートを短くする⇒普段の生活の場(寝室)とトイレの距離を出来るだけ短くする
- トイレにこだわらない⇒ポータブルトイレなど、トイレ以外でも可能な環境を用意する
- 排尿の手順を示す⇒トイレ内に排尿の手順を、イラストなどで分かり易く提示する
- 目印を付ける⇒ペーパーホルダーや水栓レバー(ボタン)などに、目印(蛍光テープなど)をつける
- トイレ内の環境を調整する⇒ゴミ箱や掃除用具など、排尿に直接関係のない物は目につかないようにする
トイレまでの移動
認知機能障害によって生じる症状
- 段差などを上手く乗り越えられない
- 扉を開くことができない
- 夜間など照明をつけることができない
- 手摺りなどを使用できない
- 杖や歩行器を使用しない(適切に使用できない)
- ベッドや布団から上手く立ち上がれない
具体的な問題
- トイレに間に合わずに失禁する
- トイレまでの移動時に転倒する
- トイレまで移動できずに座り込む
対応策
- トイレまでのルートを整理する⇒途中に棚や椅子など余計な物がないように整理する
- 扉を簡単な物に変更する⇒開き戸から引き戸に変更する、円筒状からレバー式のドアノブに変更するなど
- 夜間の照明を自動式にする⇒通路やトイレ内の照明を人感式センサーに変更する、通路はコンセント差し込み式の常夜灯がなお良い(淡い足元灯が道しるべになる)
- 手摺りの設置場所を再検討する⇒手摺り設置が困難な場所では「ベストポジションバー(自立式縦手摺り)」なども検討する
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ズボンや下着の正確な着脱
認知機能障害によって生じる症状
- ズボンや下着の着脱の方法が分からない
- ズボンや下着を脱ぐ必要性を分かっていない
具体的な問題
- ズボンや下着を脱ぐのに時間がかかり失禁する
- ズボンや下着を脱ぐのが中途半端な状態で排尿する
- ズボンや下着を脱がないまま排尿する
対応策
- 着脱が簡単な衣類にする⇒チャックやボタンのないズボン(ゴム式)などを検討する
- 着慣れた衣類にする⇒普段からよく着ている衣類にする
- 着脱の手順をトイレ内に掲示する⇒着脱の手順をイラスト化(文字だけより理解し易い)して示す
- 交換のし易いオムツやパットを使用する⇒ワンタッチで着脱可能など、出来るだけ手順が少ない物を選ぶ
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排尿後の正確な後始末
認知機能障害によって生じる問題
- トイレットペーパーを使用することを忘れる
- トイレットペーパーを上手く出すことができない
- 正確に拭くことができない(拭き残し)
- トイレットペーパー以外のもので拭こうとする
- ウオシュレットを使用することができない
- 水を流すことができない
具体的な問題
- 陰部や下着が汚れたままでトイレから出てくる
- トイレットペーパーを大量に使用してしまう
- トイレットペーパー以外の物(下着やタオルなど)を便器に流してしまう
- 下着やタオルなどで拭いてしまう
- ウオシュレットでズボンや下着を濡らしてしまう
対応策
- 排尿後の後始末の手順をトイレ内に掲示する⇒トイレットペーパーを使用、水を流すなどの手順をイラスト化して示す
- 利用し易い紙を用意する⇒ちり紙タイプ(最初から切れている)の紙を利用する
- 排尿に直接関係ない物を出さない⇒掃除用品などは目に触れない場所に収納する、手は洗面所などで洗うようにして、トイレ内にタオルなどを設置しない、ちり紙は必要最低限の設置とする
- センサーを利用⇒自動で流れる機能などを利用する
清潔維持の観念
認知機能障害によって生じる問題
- ズボンや下着が汚れても替えない
- 手洗いをしない
- 尿を触ってしまう
- 便器を触ってしまう
具体的な問題
- ズボンや下着が汚れていても気にせずにトイレから出てくる
- 手が汚れていても気にしない
対応策
- 手洗いの手順などを洗面所に掲示する⇒手を洗うなどをイラスト化して示す
- 尿取りパットを併用する⇒汚れた場合の交換が簡単な尿取りパットなどを利用する
- 汚れても交換が簡単なズボンとする⇒ファスナー式のズボンなどを利用する
まとめ
- 行動の観察⇒トイレに行きたい時のサインなど、丁寧に観察する
- 記録を残す⇒「排尿日誌」の利用など、客観的な情報を残す
- 認知機能の分析⇒認知機能のどこに問題があるのかを分析する