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前頭葉機能検査「FAB」~実施と解釈の方法について~

前頭葉機能とは?


前頭葉とは字の通りで、脳の中でも前側(おでこの部分)にあるものを指します。前頭葉は他の脳の司令塔の役割を担っており、非常に高度な機能を持っています。

生きる為に最低限必要な機能は前頭葉以外の部位(脳幹部)が担っているため、前頭葉機能に障害を負ったとしても直ちに命に係わる訳ではありません。また、通常の知能指数(IQ)に明らかな低下がないケースもみられます。

その為、入院生活などワンパターンな生活では問題なく暮らせていた人が、退院後に会社や学校などの適応に苦しむことなどがあります。

前頭葉機能(≒遂行機能)とは、目標の立案、計画的な実行、複数の課題処理、周囲との関係性の配慮、目の前の事柄だけではなく長期的な展望を持つことなどを持続して実行することなどが挙げられます。

つまり、前頭葉機能とは「人間が人間らしくある為」の機能とも言えるのではないでしょうか。事実、前頭葉の表面積は人間では大脳全体の4割強を占めていますが、最も人間に近いと言われているチンパンジーでさえ17%、その他の動物では10%以下が大半を占めています。
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前頭葉機能検査「FAB」

FABとは「Frontal Assessment Battery」の略語であります。前頭葉機能(≒遂行機能)検査には幾つかの種類がありますが、FABでは、検査用紙1枚にて慣れれば、10分程度で完了することができる「簡便」な前頭葉機能検査と言えます。

前頭葉機能検査(FAB)

1.「概念化」⇒これから言うものは、どこが似ているか考えて答えて下さい。

①「バナナとオレンジ(ミカン)」(正解:果物、フルーツ)
②「テーブルとイス」(正解:家具)
③「チューリップとバラとキク」(正解:花、植物)

3つとも正解「3点」 2つ正解「2点」 1つ正解「1点」

2.「知的柔軟性」⇒「か」から始まる言葉を出来るだけ沢山答えて下さい。ただし、人の名前や地名などは答えてはいけません。

・最初の5秒間に答えが出ない場合は、「例えばカラス」などヒントを与える
・更に10秒間答えがなかったら「“か”から始まる言葉では何でも良いですよ」など刺激を与える
・制限時間は60秒間

10語以上「3点」 6~9語「2点」 3~5語「1点」

3.「運動プログラミング」⇒私がこれからすることをよく見ておいて下さい(拳-刀-掌)を3回実施する。それでは私と同じようにやって下さい。

・対面で行う場合は、検者は左手で行い、被検者は右手(利き腕)で行うように促す(麻痺など運動障害がある場合を除く)
・最初は一緒に行うなど流れを理解させる

被検者一人で正しい系列を連続6回以上できる「3点」 被検者一人で正しい系列を連続3回できる「2点」 検者と一緒であれば、正しい系列を連続3回できる「1点」

4.「葛藤指示」⇒「私が1回叩いたら、2回叩いてください」「私が2回叩いたら、1回叩いてください」

被検者が指示を理解したことを確認してから、次の系列を実施「1-1-1」次は、「私が2回叩いたら、1回叩いてください」 被検者が指示を理解したことを確認してから、次の系列を実施「2-2-2」つぎの系列を実施する「1-1-2-1-2-2-2-1-1-2 」

間違いなく可能「3点」 1,2回の間違いで可能「2点」 3回以上の間違い「1点」 検者と同じように4回連続して叩く「0点」

5.「抑制コントロール」⇒「私が1回叩いたら、1回叩いてください」「私が2回叩いたら、叩かないでください」

被検者が指示を理解したことを確認してから、次の系列を実施「1-1-1 」次は、「私が2回叩いたら、叩かないでください」 被検者が指示を理解したことを確認してから、次の系列を実施「2-2-2」 つぎの系列を実施する「1-1-2-1-2-2-2-1-1-2 」

間違いなく可能「3点」 1,2回の間違いで可能「2点」 3回以上の間違い「1点」 検者と同じように4回連続して叩く「0点」

6.「把握行動」⇒「私の手を握らないでください」

被検者に両手の平を上に向けて膝の上に置くよう指示する。検者は何も言わないか、あるいは被検者の方を見ないで、両手を被検者の手の近くに持っていって両手の平に触れる。そして、被検者が自然に検者の手を握るかどうかをみる。もし、被検者が検者の手を握ったら、「今度は、私の手を握らないでください」と言ってもう一度繰り返す。

検者の手を握らない「3点」 被検者が戸惑って何をすれば良いか尋ねてくる「2点」 検者の手を握る「1点」 手を握らないように指示しても手を握る「0点」

前頭葉機能検査「FAB」の項目別解釈

1.概念化

この回答の間違いパターンに関しては、無回答や的外れな回答などがありますが、前頭葉機能障害の特徴的な間違いパターンとして、「直接的な特徴」を答えてしまうことが挙げられます。例えば、①「バナナとオレンジ(ミカン)」の問題の場合、「美味しい」「黄色とオレンジ色」「バナナは甘いオレンジは酸っぱい」などと回答してしまいます。

前頭葉機能障害がない方でも、最初に質問された場合は少し考えてしまうかもしれません。ただ、一度回答すると質問の背景(共通の概念を答える)を理解して問題なく答えることができます。

前頭葉機能障害の場合、ヒントなどを与えても回答の修正を行うことが難しくなります。

2.知的柔軟性

「か」から始まる言葉を出来るだけ沢山回答する必要があるのですが、同じ回答は不可となります。その為、前に回答した言葉を頭に留めつつ、新しい言葉を次々に思い出す必要があります。いわゆるワーキングメモリの機能が働いていると考えられています。

知的柔軟性が低下すると、「言葉が次々に出てこない」「同じ回答を続けてしまう」などの間違いパターンが現れてきます。

3.運動プログラミング

前頭葉機能障害の場合、単一の行動は可能なのに、複数の行動を手順に沿って(拳ー刀ー掌)進めることが困難となります。

日常生活(ADL・IADL)は複数の行動の組み合わせによって成り立っているとも言えます。運動プログラミングが低下すると、日常生活の様々な場面で問題が起こることが考えられます。

例えば、入浴場面では「洗面器にお湯を入れる⇒お湯を身体にかける⇒スポンジに石鹸をつける⇒身体を順番に洗う⇒流す」など、手順に沿って進めることが出来なくなってしまいます(それぞれ個別には行うことができる)。

4.葛藤指示

「1回叩いた場合は2回」「2回叩いた場合は1回」。人間は元々、反射的に人の真似をしてしまう傾向があります。ワーキングメモリによりルールを保持しながら、反射的な行動を抑制することを求められます。

葛藤指示が低下した場合、日常生活(ADL・IADL)では、周囲の環境に強く影響を受けて(引っ張られる)しまいます。例えば、エレベーターで自分が下りたい階ではないのに、前の人が下りたので反射的に降りてしまうなどが考えられます。

5.抑制コントロール

「1回叩いたら1回」「2回叩いたら叩かない」。私達であっても、「2回叩いた場合」でも反射的に手が出そうになります。前頭葉機能では、ワーキングメモリによるルールの保持と共に、そういった反射的な行動を抑制する機能もあります。

抑制コントロールが低下すると、日常生活(ADL・IADL)にて様々な問題が発生します。例えば、歯磨きで同じ場所を磨き続ける(保続)などが考えられます。

6.把握行動

前頭葉機能障害の場合、被検者の手の平に検者の手を触れると、被検者が意識しないにも関わらず握り込んでしまう異常行動が現れる場合があります。

無意識に手を握り込んでしまう異常行動は「把握反射」といわれます。把握反射は「原始反射」に属しており、乳幼児期に見られる反射でもあります。通常は前頭葉機能の成長と共に、乳幼児期の間に消失してしまいます。

ただし、本当は「消失」するのではなく、成長した前頭葉により抑え込まれてしまうのです。しかし、何等かの原因により前頭葉機能が障害を受けた場合に、抑制されていた「原始反射」が再び現れてしまうのです。

余談ですが、把握反射とは人が「猿」だった頃の名残だともいわれています。猿の赤ちゃんは木の上を跳ね回る母猿から落ちないように四六時中しがみ付いておく必要があります。無意識化でも握り込む把握反射が生きる為に必要だったのです。

FABは何点以下から問題?

FABのカットオフ値(正常・異常を分ける点数)は幾つかの報告が挙がっています。ただし、私個人はカットオフ値で判断することは重要ではない(難しい)と考えています。

理由は、前頭葉機能とは非常に高次な機能であり、前頭葉機能以外の様々な機能(要因)が絡んでいる可能性が高いからです。カットオフ値で判断するのではなく、「どの項目がどの程度障害されているのか」という視点で判断することが重要だと考えます。

因みに、ある程度の年齢(小学校高学年)になると、通常はFABが満点を取れるようになります。どの評価テストにも言えることですが、合計点のみに注目するのではなく、項目別の正答状況や周辺情報の収集など多角的な視点にて評価することが求められると思います。

 
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