認知症予防に効果的な食事方法【いつもの食事に一工夫】
目次
認知症予防と食事
認知症は単独の原因で発症することは稀であり(一部の遺伝子変異を除く)、多くは多数の要因が積み重なって起こる多因子疾患であると言われています。
また、生活習慣(ライフスタイル)の影響が大きいと言われており、その中でも食事に関しては、日々の生活で切っても切り離せない関係にあり、特に注意すべき要因であると言えます。
今回は認知症予防と食事方法について、文献なども参考にしながら考えていきたいと思います。
年代別のアルツハイマー危険因子
アルツハイマー型認知症の危険因子は年代によって違いがあります。
中年期
肥満や糖尿病(インスリン抵抗性)が危険因子となり、メタボリックシンドロームの予防が重要となります。
☞インスリン抵抗性とは?
インスリンに対する反応性が低下して血糖が下がりにくくなった状態。高血糖の状態が続くと、糖尿病へと進行してしまいます。
老年期
ビタミンや脂肪酸などの栄養素に加えて低栄養が危険因子となっています。その為、適切な栄養素を適切な量だけ摂取することが重要となります。
☞point
中年期の場合は適切な栄養制限、老年期の場合は積極的な栄養摂取、いずれの場合でも「食事コントロール」が重要であると言えます。
栄養素別での認知機能との関連性
厚生労働省より「日本人の食事摂取基準(2020年版)」として、詳しい報告書が発表されています。
報告書によると、
「認知機能低下及び認知症と栄養の関連について強い関連が指摘され始めている。ただし、各栄養素との関係は発症予防を目的とした目標量を示すほど十分な根拠は今のところない」
と記載されています。以下は報告書内での文献考察の抜粋になります。
葉酸・ビタミンB6・ビタミンB12
必須アミノ酸の代謝過程で作られる「ホモシステイン」という物質に上記ビタミンが関係しています。いずれのビタミンが不足した場合でも、血液中のホモシステイン濃度が上昇します。
☞アミノ酸代謝とは?
体内のタンパク質を構成する主要な成分が、様々な種類のアミノ酸になります。アミノ酸の役割の1つに血糖に分解されて身体のエネルギーに利用されることが挙げられます。この分解から利用の一連の過程をアミノ酸代謝といいます。
このホモシステインは、血管への影響の他に、神経毒性が指摘されています。つまり、ホモシステインの血中濃度高値と認知機能低下や発症と関連の可能性が考えられています。
これらのことにより、ビタミン摂取(濃度)と認知機能の関係性についても研究が進められてきましたが、これについては優位な効果は認められていない状況にあります。
n-3系脂肪酸
脂の豊富な魚などに多く含まれる(長鎖)n-3系脂肪酸の摂取量が少ないと認知機能の低下や発症に関与するとの報告が出ています。しかし、n-3系脂肪酸と認知症との関係は認められないとの報告も多数出てきています。
ビタミンD
血液中のビタミンD濃度が低くなることは、認知機能低下のリスクとなる報告が出ています。しかし、その後は関連性を否定する報告が多く出されています。
以上より、ビタミンDの摂取量不足が認知機能低下と関連する可能性はありますが、摂取量増加が認知症予防になる根拠はないとされています。
ビタミンE・ビタミンC
抗酸化機能をもつ栄養素と認知機能や認知症との関連も注目されており研究が行われてきました。
ある報告では、認知機能正常者は低下者と比較して、血液中のビタミンC濃度が高い傾向があるものの、ビタミンC濃度と認知機能の間に相関(関係)は認められなかったとあります。
効果があるという研究では、十分な量のビタミンE・Cを併用すると、より強い予防効果があり、単独だと効果がないか減弱するという報告も出ています。
つまり、ビタミンE・Cと認知機能や認知症との関係に関して、一致した結果が得られていない現状と言えます。
認知症予防に地中海食
糖尿病や心血管疾患予防に加えてアルツハイマー型認知症予防にも効果があると、世界で多くの報告が出されているのが、「地中食」と呼ばれる料理方法です。
様々な地中海食の定義があるようですが、厚生労働省から以下の資料が出ていました。
- 植物性食品が豊富(果物、野菜、パン、その他の穀物製品、豆類、種実類)が豊富
- 加工度を最小限に留めた季節折々その地域で育てられた新鮮な食品を使う
- 典型的なデザートとして新鮮な果物を食べる
- 油脂類の主たる摂取源としてオリーブ油を用いる
- 少しか適量の乳製品(主にチーズとヨーグルト)を食べる
- 卵の使用は週に4個未満である
- 赤身肉の使用はまれであり、少量である
- 少しか適量のワインを普通は食事と共に飲む
ただ、現実的に日々の食卓を地中海食にいきなり変更することは難しいでしょう。そこで、上記資料には「地中海食研究に基づく日本食の健康効果(仮説)」という続きの内容がありました。
季節ごとに旬の食べ物があり、気候と地形の多様性にも恵まれ、地場産物を利用できる日本において、お米を中心とした日本食の基本を保持し、
- 野菜をたっぷり食べる
- 果物をたっぷり食べる
- 主食を精製度の低い穀類にする
- 更なる減塩に努める
が、加われば、地中海食を超える健康食になるかもしれない
どうですか?「日本食プラスα」であれば、無理なく始めることが出来るのではないでしょうか?
ただ、上記資料は「日本食プラスα=認知症予防」とは言っていません。あくまでも「日本食プラスα≒地中海食」と言っているだけですね。
なので、現時点で分かっていることは、「地中海食≒認知症予防」と「日本食プラスα≒地中海食」となりますが、「日本食プラスα≒地中海食≒認知症予防」と考えてもよいのではないでしょうか。
ケトン食療法
ケトン食療法とは
ケトン食療法とは、難治性てんかんの治療に使用されており、最近はダイエット食としても話題になった食事療法です。更に2020年のアメリカでの小規模実験にて、このケトン食療法が認知機能低下にも効果がある可能性が報告されました。
アルツハイマー型認知症とケトン食
アルツハイマー型認知症は脳のエネルギー源であるブドウ糖がうまく取り込めずに、脳のエネルギー不足になる疾患と言えます。結果、エネルギー不足の脳は上手く働くことが出来ずに記憶能力が低下します。
ケトン食とは、「高脂質・低糖質」の食事になります。低糖質の食事を続けていると体内の糖質が不足します。すると、肝臓で脂肪が分解されて「ケトン体」がつくられます。このケトン体がブドウ糖の代わりに脳のエネルギー源として利用されるのです。
安易な導入は要注意
個人でケトン食を導入するのは結構大変かもしれません。例えば、私達の主食である白米は殆ど食べることが出来ません(1食あたり2,3口ぐらい?)。
そもそも必要なカロリーを摂ることが出来なければ、冒頭の「年代別のアルツハイマー危険因子」でも述べたように、逆効果になってしまいます。ケトン食で必要カロリーを摂る為には、かなりの工夫が必要になると言えるでしょう。
また、ケトン食には副作用として、低血糖、吐き気、下痢、便秘などのマイナス効果もあります。まずは、かかりつけの先生などに相談したうえで、管理栄養士のアドバイスを受けながら導入する方法が現実的かなと思います。
☞point
ケトン食は「難治性てんかん」に対する特別食として保険適応が認められていますが、認知症に関しては保険適応は認められていません。残念ですが、これからに期待ですね。
食事プラス運動
認知症予防には複合的な取り組みが重要であると言われています。今回紹介してきた食事だけではなく、運動なども取り入れることで、より効果的な認知症予防策をとることができるでしょう。
まとめ
- アルツハイマー型認知症のリスク因子は年代によって違う(中年期⇒太り過ぎ 老年期⇒痩せ過ぎ)
- 認知機能低下と栄養の関連について強い関連が指摘され始めているが十分な根拠は今のところない
- 地中海食は認知症予防に効果があると多数の報告あり
- 地中海食をそのまま取り入れるのは難しいが日本食プラスαでも効果が期待できるかもしれない
- ケトン食療法も効果が期待できるが導入は慎重に検討する必要あり
- 複合的な取り組みが重要⇒食事プラス運動