「長谷川式認知症スケール」より分かる9項目の障害解釈と対策方法
R3.9 加筆修正
医療介護の現場で、作業療法士として長年患者さんを関わってきた私が、長谷川式認知症スケール(以下HDS-R)で評価する「記憶」について整理をしてから、具体的な実施方法や解釈方法を説明していきます。
目次
HDS-Rを始める前に
HDS-Rは「記憶」の障害に焦点を当てた評価スケールになります。
ただし、一言で「記憶」と言っても、いくつかの種類に分けることができるんです。
HDS-Rを正確に実施・解釈する為には「記憶」について、しっかりと整理しておく必要があります。
記憶とは
記憶とは、自身が経験したことや情報を覚えて、保持して、状況に応じて取り出す一連の過程を指します。
記憶は自身の中で積み重ねられ、繋がれていくものです。記憶の繋がり(連続性)は、「自己同一性」を維持するために欠かせないものでもあります。
☞自己同一性とは?
「自分は自分である」という認識や概念。アイデンティティと言われたりする。
記憶の種類
内容による分類
意味記憶
世の中の事実や概念など知識全般を含みます。
例えば、「お箸」という言葉を聞けば、「食事の際に2本の棒で食品を挟んで口に運ぶもの」ということが分かります。
他にも、晴れた空は青色、赤信号は止まれ、氷は冷たい等々、生活の中で「知識」を得ることで身に着けていくものです。
エピソード記憶
自身の身に起こった個人的体験に関する記憶であり、「いつ、どこで、なにをした」と表現することができます。
「私は〇〇小学校の出身で卒業式の日に友達の〇〇さんから手紙をもらった」などの記憶が挙げられます。
手続き記憶
経験を重ねた動き、習得した技など何かを効率的に行う際の方法の記憶です。
記憶の取り出しは意識的ではなく、自動的に行われます。
例えば、昔に乗っていた自転車を久し振りに乗ったとしても、スムーズに乗ることができるなどが挙げられます。
他にも、熟練の職人さんが細かで正確な作業を行うことも、手続き記憶が関連していると考えられています。
時間による分類
即時記憶(短期記憶)
- 記憶時間⇒数秒~数十秒
- 記憶容量⇒少ない
見たり聞いたりした簡単(単純)な内容を、即座に再生(思い出す)する記憶になります。
例えば、テレビコマーシャルを見ていた場合、直前のコマーシャルの内容は何となく頭(印象)に残っているが、直ぐに記憶の彼方に飛んでいく(忘れてしまう)となどが挙げられます。
記憶時間が短く、記憶容量も少ないことから、無意識下で次々と記憶しては忘れることを繰り返しています。
近時記憶
- 記憶時間⇒数分~数時間
- 記憶容量⇒多い
見たり聞いたりした内容(情報多)を、一定時間(数分~数時間)おいてから再生する記憶になります。
例えば、テレビコマーシャルで話していた内容を覚えるとします。数分程度であれば(長くても数時間)記憶に留めることが可能ですが、数日も経つと忘れてしまうなどが挙げられます。
遠隔記憶
- 記憶時間⇒数日~数十年
- 記憶容量⇒非常に多い
見たり聞いたりした内容(情報多)を、長期間(数日~数十年)おいてから再生する記憶になります。
例えば、子供の頃に何度も見た大好きで印象的なテレビコマーシャルがあったとします。数十年後の大人になっても、鮮明に当時の内容を思い出すことが出来るなどが挙げられます。
非常に堅固な記憶であり、認知症の方でも比較的最後まで残存する記憶となります。
感覚器による分類
視覚性記憶
目で見て覚える記憶能力です。例えば、トランプの神経衰弱で、マークと数字を黙って覚えることなどが挙げられます。
聴覚性記憶
耳で聞いて覚える記憶です。例えば、電話口で相手が言った言葉を、メモなしで覚えることなどが挙げられます。